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「スペインに煮え湯を飲まされ続けた、”守備戦術たち”のリベンジ完遂」EURO2016 ベスト16 イタリア-スペイン

ここで何度も書いているように、今大会のEUROは「守備戦術の大会」だと思っているのだが、まさにその守備戦術の権化であるイタリアが、「自分たちの攻撃サッカー」のシンボルであるスペインに完勝した事で、そのレッテルは決定的なものになったと言えるだろう。

スペインのパスサッカーが今まで成功を収めてきた理由は、サッキ時代のACミランから勃興したゾーン・ディフェンスに対する効果性である。4-4のゾーンの間に前線の選手が入ってパスを受け、相手のマークを引き付けてゾーンのバランスを崩し、リターンをもらった中盤からサイドやゾーンの間に出来たスペースにスルーパス、といった形で崩して来た。

守る側も、4-4のゾーンを縦横にコンパクトにして対抗しようとしたが、そうすると今度は4人のDFの外側をSBのオーバーラップで突かれ、そこに守備側のSBが外に出て対応すると、今度はSBとCBの間にスペースが出来てそこを使われ、折り返しをセンターからズドンという悪循環。アトレティコのようにゾーン・ディフェンスを徹底的に磨き上げて完璧なディアゴナーレと激しいプレスで対抗するチームもあるが、そこまで戦術が徹底できない代表チームでは難しい。

その対策として、ブラジルW杯ではゾーン・ディフェンスではなく5バックによるマンマークが流行ったが、その場合は守備が良くてもサイド攻撃がやりにくくなり、そもそもカウンター向きのFWがいないと攻撃は使い物にならず、ドイツのような選手のポジションがくるくる変わるローテーション戦術に対応できないという理由で、イタリアのような例外を除けば少数派になってしまった。

ゾーン・ディフェンスの改変という形では、4-1-4-1というバイタルエリアにアンカーを常駐させて監視する戦術が考案されたが、ベルギーと対戦したハンガリーを見れば分かるように、アンカーの両脇にスペースが出来やすく、4バックの外側から攻撃される弱いという理由でこれも廃れ、今ではバイエルンのようにかえってポゼッション向きの戦術になってしまった。

それで今大会のトレンドになったのが4-5-1。4-4のコンパクトなゾーンで中央を固め、サイド対策としてSHが下がって5-4-1のような形で対応する。今大会のスペインは、旧来の守備システムを採ってきたトルコには大勝したが、4-5-1気味の守備でサイドを封じてきたチェコとクロアチアに対しては苦戦を強いられていた。グループリーグをしっかり勝っていれば決勝トーナメントで反対の山へ行けたわけで、結局スペインの早すぎる敗戦は、その新しい守備トレンドに対応できる攻撃パターンを作り出せなかった事に尽きるだろう。

イタリアは3バックのマンマークだが、サイドを攻守のポイントに据えたことは同じである。ピケとブスケツというビルドアップの起点にジャッケリーニとペッレをマークさせ、ファンフランとジョルディ・アルバがボールを受けに下がるように仕向けた。そこをフロレンツィとデシーリオが使って高い位置取りをし、ボールを奪ったらオートマティックにサイドチェンジして基点を作っていた。前半のスペインは、ペッレへのロングボールとサイドチェンジに全く対応できていなかった。スペインは、攻撃だけじゃなくて守備のサイド対策という面でも戦術的に遅れていたのである。

この試合でスペインは、後半からアドゥリスをトップに入れてロングボールを使い出し、さらにドリブルと運動量が持ち味のルーカス・バスケスがサイドを攻めるという、前半でイタリアがやっていたのと同じ攻撃パターンで攻勢に出たのは皮肉というしか無い。もっとも、スペインがそんな俄パワープレイをしたところでイタリアには痛くも痒くも無く、5バックと4人の中盤で堅固なゾーンを作って分厚く守り、ピケのヘディングやイニエスタのミドルもブッフォンがきっちり弾き出し、ロスタイムにサイドチェンジからペッレがボレーを決めて万事休す。

勝ったイタリアの次の対戦相手はドイツと、これまた決勝戦のようなカードになってしまった。この試合内容でイタリアを優勝本命に変更した人も多いだろうが、日程が1日厳しい事に加え、ドイツが楽な試合だったのに対してイタリアの選手はこの試合で相当に走っているので、モッタの出場停止を考えると決して楽観視出来る試合ではない。好カードが期待されるが、コンディションによってはあっさり敗退もありうると思っている。スペインは色んな意味で出直しだが、このままパスサッカーは変わらないままなのか、アトレティコのような方向に180度転換するのか、興味深く見てみたいところだ。

ともかく、これで某国に宗教のごとく広まっている、スペイン-バルサのパスサッカー信仰が消えて守備戦術に対する意識が向上してくれるとありがたいんだけど、そう簡単に「自分たちのサッカー」で染まった頭は変わらないんだろうなあ(苦笑)。

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