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ハリルホジッチの叫びは、またもや「王様の耳はロバの耳」で終わってしまうのか

ハリルホジッチが、国内組の代表合宿でゾーン・ディフェンスの基礎とも言えるロープを使って選手間の距離感を学ばせる練習をしていた事で、Twitterの戦術サッカークラスタがにわかに盛り上がりました。

欧州では中学生レベルの初歩的な練習を、わざわざ国家代表トップの選手にやってくれるハリルホジッチの熱意に感謝すると同時に、ザックが途中で匙を投げた繰り返しではないかという情けない気持ちも湧き上がって来るわけですが、何故そこまでゾーン・ディフェンスを浸透させようと涙ぐましい努力をするかというと、今のサッカー戦術のほぼ全てが、ゾーン・ディフェンスからの派生型で成り立っているという厳然たる現実があるのです。

確かに、今ではゾーン・ディフェンスそのものの戦術は少なくなってはいますが、ドルトムントのゲーゲンプレッシングにしても、バイエルンの0バックディフェンスにしても、ポジションのセットはゾーン・ディフェンスのポジショニングがベースになってますし、引いて守る時間帯はゾーン・ディフェンス的に守る場合が多く、欧州でプレイする選手が既に習熟しているべき常識として位置づけられている事が分かります。

ゾーン・ディフェンスをベースに監督独自のカラーを植えつけた守備組織が完成された上で、デュエルや個人戦術でどう差を付けるかというのが欧州における勝負ポイントであり、守備はリトリート、攻撃は狭い中でショートパスを回しまくるだけが能の日本とは、戦術レベルが天と地ほどの差があります。

そのため、欧州に渡った日本人選手は軒並みゾーン・ディフェンスへの適応に苦労しています。比較的スムーズに対応できたのは内田と原口ぐらいで、長友と両酒井、吉田は未だにポジショニングの問題を指摘されていますし、細貝は人に食いつくのが自分の個性になってしまい、ダルダイ監督から見放されていました。

それは戦術にうるさい監督だけでなくて、戦術に疎い監督でも問題になってしまうのがまた困ったもので、例えば長谷部は比較的ゾーン・ディフェンスに慣れている選手ですが、しばしば集中を切らして自分のゾーンを放棄してしまう癖があり、もし戦術に長けた監督なら指導・修正するんでしょうが、フェー監督はかなり選手任せなので、欠点がある長谷部をSBに追いやることで問題に蓋をしているフシがあります。

しかもそれは欧州に限った話ではなくて、アフリカのチームはフランスから導入したゾーン・ディフェンスが荒削りながらも完全に浸透していますし、今やACLを見ても東南アジアや中韓のクラブのほうが、よほど日本よりもしっかりしたゾーン・ディフェンスをやっています。では、何故それが日本ではいつまでたっても浸透できないのか。

まず大局的な問題として、日本においては「戦術=束縛」と認識されてしまっている現状があります。もともと、サッカーというスポーツが、体制的なスポーツである野球に対するカウンターカルチャーとして位置づけられてしまった歴史がありますし、トルシエがフラット3を戦術を知らない選手に習熟させるために、意図的に高圧的な指導を行った事がマスコミや川淵キャプテンからやり玉に上げられ、本来日本の実力からすると快挙とも呼べた2002年W杯のベスト16進出が、黒歴史化されて戦術意識もろとも闇に葬られ、「自由と創造性」という旗印のもと、ジーコジャパン以来の失われた10年になってしまいました。今回もまた、マスコミは「恐怖」というキーワードを使って戦術意識を茶化しています。

そのため、相手がいない状態でのキックやドリブルだけは出来るけども戦術を知らない、個人で守るスキルがない選手が大量生産されたのが今のJリーグであり、そういう選手ばかりが揃っている中でゾーン・ディフェンスをチームに浸透させるのは並大抵の努力ではなく、かつてはベルデニック氏や松田氏、三浦俊也氏が導入しようとしたものの、やはり素養が無い選手に教えこむのは時間がかかり、いざ組織が出来たと思ったら守備の約束事を守るだけで精一杯で、本来は攻守一体の戦術であるはずのゾーン・ディフェンスが、さっぱり点が取れない戦術としてサポーターに誤解されてしまったのも不幸でした。

もちろん、ゾーン・ディフェンスを根付かせようと奮闘している指導者もたくさんいて、ユースや高校ではちゃんとゾーン・ディフェンスをやっているチームを見かけますし、金沢の森下監督や大宮の渋谷監督、鳥栖のフィッカデンティ監督など、Jクラブにもゾーン・ディフェンスをベースにした戦術を採用しているチームはあります。が、そういうクラブはまだまだ少数派で、例えユースや大学などでゾーン・ディフェンスを学んだ選手がJリーグに入っても、「朱に交われば赤くなる」「悪貨が良貨を駆逐する」とばかりに、緩い「なんちゃってゾーン・ディフェンス」に染まってしまうのが現実です。

つまり育成組織、Jリーグ、各年代代表が全て足並み揃えて戦術に対する意識レベルを引き上げないと、いつまでたっても一部の努力がそれ以外の大勢に塗り潰される状況は変わらないわけで、ACLを見ても日本サッカーのガラパゴス化は危機的な状況に及んでいると言えます。本来は、JFAがしっかり舵取りを行うべきなのに、未だに技術委員会からして1対1やフィジカルの強化しか言わず、戦術の問題にさっぱり触れないのだから絶望しかありませんなあ・・・(苦笑)

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