サイトアイコン 旧閑ガゼッタ

「ハリルジャパンのマインドセットを創りだした、原口と山口螢の功績」ロシアW杯アジア2次予選 アフガニスタン-日本

シンガポール戦、カンボジア戦とスッキリしない内容と結果が続いていたアジア2次予選。しかし中立地とはいえ実質アウェイのテヘランで行われたアフガニスタン戦は、今までの鬱憤を晴らすような6-0という大量得点を挙げての快勝となった。

もっとも今回対戦したアフガニスタンは、元ハノーファーの育成担当だった監督が率いているとは思えないほどシンガポールやカンボジアに比べて守備組織が構築されておらず、フォーメーション上では4-4-2という形で4バックこそ一応ラインを形作ってはいたが、中盤がほぼマンマークでゾーンを整えるという意識が無く、ボランチが日本の選手に付いて行ったまま4バックの中に入って6バックのようになってしまったりとバイタルのケアがさっぱりで、その割に攻撃時には結構前に出てくれるので日本にとっては非常に与し易かったと言うか、チャンスの数から言えばもっと点を取ってもおかしくない相手だった。

とは言え、日本にとって明るい材料も少なくなかった試合であったのは確かで、まず大きな成果をもたらした第1のポイントは、原口元気の先発起用であった。

これまでハリルホジッチが先発起用していた2列目のサイドは、本田を筆頭として武藤にしても宇佐美にしても、中に入ってボールを受けようとする傾向が強く、特に左サイドは彼らが中に入ってしまうと餌に引きつけられるようにしてもれなく長友が上がって来てしまい、右サイドは右サイドで本田が中に入って来るので、常にゴール前は中央で4人が寄り集まって渋滞を起こし、仕方なく密集目掛けて適当クロスを上げざるを得ないような形が多すぎた。

しかし原口はヘルタでダルダイ監督からゾーン・ディフェンスの薫陶を受けているだけあって、攻撃時はタッチライン際ギリギリにポジションを取っていた。そうする事で相手のマークから離れた状態でボールを受けられるので基点を作りやすく、長友の前に蓋をする形になるので無闇な上がりが抑えられ、香川が前を向いてプレイ出来るスペースを作る事が出来ていた。

前半9分の香川のミドルが決まった先制点の場面がその好例で、長友が上がろうとするんだけど原口とかぶるので一旦下がり、そこで受けてから原口にパス、原口がキープしている間に長友が猛然とオーバーラップ、それに相手が釣られてマークが外れたところで原口が中へドリブル、それにまた相手が釣られた隙に原口が香川にパス、フリーになった香川が反転してシュートと、スペースをワイドに使って相手を分散させ、出来た中のスペースを使ってシュートと、ゾーン・ディフェンスの考え方に沿った形でのナイスゴールだった。

ただし原口自身は、ハリルホジッチによほどその働きを気に入られてしまったのか、後半31分から酒井宏樹に代えて右SBに送られるという、シンガポール戦でのボランチ起用に続く謎采配でおもちゃ扱いをされて良い迷惑になってしまったが・・・(笑)

そして2番目のポイントは山口螢の使い方。カンボジア戦ではあまり攻撃面で良いところがなく、個人的にはアフガニスタン戦では柴崎を使ったほうが良いのではないかと思っていたが、ハリルホジッチの選択は変わらず山口を先発に据えた。

その狙いはアフガニスタンが攻撃時に前へ出て来た事ですぐ判明した。山口は非常に幅広い動きで相手のクサビを止めてカウンターの基点をことごとく潰しまくった。ハリルホジッチ的には、ゾーン・ディフェンスのボランチとしては戦術理解に乏しいものの、それ以上に山口をゲーゲンプレッシングの要として重視しているのだなと確信させられた。これなら、柴崎が山口の代わりにならないのも当然だろう。香川も以前とは比較にならないぐらいに守備意識が高く、山口をしっかりサポートした。

逆に長谷部は役割が曖昧になった。山口が完全に4-3-3のアンカー的な働きをしていたので、長谷部はよりインサイドハーフとして攻撃のリンクマンになる必要があったのだが、本田が中に入ったスペースに上がって来る酒井を上手くフォローできず孤立させ、相手が警戒していたとは言え左サイドのようなコンビネーションを生み出せなかった。キャプテンだからなかなか試合は外せないが、展開によっては柴崎を長谷部の代わりに使うという選択肢はあり得るのではないだろうか。

3つ目は、いわゆる「1つ飛ばし」のビルドアップ。今までのハリルジャパンでは、DFラインでは遅くゆっくりパスを回すことが多く、相手の守備を動かさないうちに我慢しきれずパスを出して、マークを背にした選手が戻し、またタラタラボールを持ってという繰り返しだったのだが、この試合では森重から酒井、吉田や酒井から原口といったように、間を飛ばした大きなサイドチェンジで一気にサイドで基点を作る試みがされていた。残念ながら、精度を欠いて通らない場面はあったが(特に森重>酒井)、2次予選での引いた相手を崩すという意味では非常に重要なトライである。

最後はマインドセットの変化。今までのハリルジャパンでは、とにかく早く結果を出して楽になりたいあまり、「異常にボールを失うことを恐れて確実なパスしか出さない」「前へ中へと選手が集まって交通渋滞」「自分のタイミングしか見ないクロスやスルーパス」といった、視野もプレイエリアも狭いサッカーに終始してしまっていた。

しかし今は山口を中心とした中盤の守備が安定し、各選手がよりリスクをかけて大きなサッカーをして良いんだ、ボールを失っても奪い返せば良いんだという前向きなマインドに変わりつつある。その”大きく前向きに”という意識を創りだしたという意味で、原口と山口螢の起用が大きな鍵になった試合であった事は確かだろう。裏の試合でシリアがカンボジアに6-0と大勝したので日本は得失点差でも差は付けられているが、この流れをしっかり維持すればそれほど恐れる必要は無いはずだ。

モバイルバージョンを終了