サイトアイコン 旧閑ガゼッタ

「日本がクロスを100本上げても得点につながらない理由」ロシアW杯アジア2次予選 日本-カンボジア

シンガポール戦の無得点に続き、さらに力が劣るカンボジアを相手に3点しか取れなかったという事で、越後屋を始めとしてマスコミ評論家の皆さんはさぞかしお怒りだろうが、個人的には「まあ勝てて良かったんじゃね?」というところが率直な気持ちだ。

こういうチームを相手に大量得点を狙うのであれば、ハーフナー・マイクみたいな長身選手を前線に置いて放り込むのが一番なのだが、おそらくハリルホジッチ監督のチーム作りは単にアジア2次予選を勝つ事だけを目指していなくて、あくまでW杯やアジア最終予選レベルで対戦する相手を念頭に置いてやっているように思う。

それが現れているのが、カンボジア戦で相手にボールを奪われた後のフォローの速さ。試合後の談話で、ハリルホジッチが「選手には6秒から7秒でボールを奪うように指示していたが、彼らは3秒で奪っていた」と語っていたが、カンボジアだったらほっといても相手が勝手にミスをしてくれるところだが、強豪相手ではプレスが一歩でも遅れると致命傷になるわけで、選手は疲れていながらもプレスバックの動きに一切サボる様子はなく、守備の切り替えへの意識の高さを感じさせた。

あと、やはりシンガポールもそうだったが、相手にとって日本は憧れの存在であり、そういうチームにとって日本戦というのは勝つ事よりもどれだけ失点せずに終わるかというのが目標であるため、ひたすら全身全霊をかけて守り倒していた。それも闇雲に走るのではなく、5-4-1のフォーメーションで3枚のCBは日本の縦パスを前に出てマークしつつ、SBとSHの2枚が日本のオーバーラップにピッタリ付いて行き、残りの中盤3枚はPAの中に入ってゴール前で壁を作る。監督は韓国人だが、カンボジアの守備陣はしっかり首を振って位置を確認し、少しでも時間があると陣形を整える冷静さがあった。

そして東南アジアのチームは、日本よりもさらにスタミナと俊敏性があるので、どれだけパスを回して走らせても最後まで相手は食らい付いてくる。高さで勝負していない日本にとっては、こういうスタミナと戦術を兼ね備えた、全く前に出て来ない相手を崩す事は本当に難しい。それだけに、日本があまり得意じゃないミドルシュートで2点を取った価値は大きいと言える。

とは言え日本代表にもまだ向上すべき部分は多くある。その最も大きなポイントは、クロス攻撃へのこだわりだ。

シンガポール戦、カンボジア戦とも、日本は何本上げたか分からないぐらいにクロスを放ち続けたが、今回も全く点には繋がらなかった。これは単に高さが無いというのもあるが、クロスの出し手が受け手の事を全く考えずに出しているせいでもある。

カンボジアがしつこく食い下がってくるので、日本の選手はサイドでマークを剥がすパス交換をしつつ自分が出せるタイミングを探すのが精一杯という感じで、ほとんど中の選手とコミュニケーションが取れていないままにクロスを上げてしまっている。特に本田が右サイドでよくやる内側に切れ込んでから浮き球の左足クロスは、相手の守備が整わない状況でのアーリークロスならともかく、密集したゴール前に埋もれた岡崎相手に何本出しても全く無意味である。

岡ちゃんが「香川がクロスを上げるなんて!」と驚いていたが、後半6分に岡崎に合わせた香川のクロスは、オッド戦でムヒタリアンが決めた形とほぼ一緒である。ドルトムントの場合は、香川がヘッドアップして切り返した瞬間にファーサイドに選手が飛び込む形が完全にパターン化されており、いちいち受け手と出し手で呼吸を図る余地がない。今の日本が必要としているのは、こういったクロスの形のオートマティズムである。

そして前半29分に酒井のクロスを香川が枠外に、41分に武藤の折り返しを香川がQBKした場面のように、サイドを速くダイレクトパスで繋ぐ形は、引いた相手を崩す常套手段である。これも前節のドルトムントが香川のチップキックからギンターがダイレクトで折り返し、オーバメヤンが決めたゴールだが、これもチームの形としてオーガナイズされたものであり、いかにしてこういう形を練習で反復し、精度を高められるかが今後の鍵になる事は間違いない。

あとは選手選考とフォーメーションにも改善の余地はある。本田はスピードと右足が無いので、どうしてもサイドの高い位置で持ってもそこからマークを剥がすには酒井宏樹の助けが必要になるし、長友はコンディションが悪くて一瞬のキレが無く、結局マークを剥がせずに持ち過ぎて適当クロスで終わってしまう形が多すぎた。山口螢も、結果は2アシストだが縦横に素早くボールを動かす仕事があまり出来ず、パス回しに詰まった挙句に適当シュートになってしまっていた。

やはり、ここは試合前展望のエントリーでも書いたように、本田と香川をインサイドハーフにした4-3-3で本田を一段下げてゲームメイクさせ、左右のウイングに武藤と原口のスピードとドリブルで抜ける選手を置くほうが良いのではないかと思う。実際、カンボジア戦でも香川はトップ下で始終マークされ、後半にサイドへポジションを移してから流れが良くなったので、是非フォーメーションとポジションの変更をハリルホジッチにはお願いしたい。

モバイルバージョンを終了