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「エンポリとの絶望的な戦術組織の差」イタリア・セリエA ミラン-エンポリ

一応は勝ち点6の差がある中位と下位のチーム同士という対戦ではあったが、シュート数は7対16、ポゼッションでも42%と58%という、どちらが上位ランクなのか分からないぐらいにホームのミランがエンポリに圧倒され、最後はミランが9人になって命からがらドローで逃げ切るという何とも情けない試合になってしまった。

以前のエントリーで、日本代表がビッグネームの監督を迎えるならば優秀な戦術家の副官が必要だと書いた事があったが、まさにこの試合はサッリ監督率いるエンポリの見事な組織力との落差を見せつけられ、インザーギ監督の戦術的な手腕不足を露呈する格好になってしまったと言える。

エンポリは最近見た試合では傑出したゾーンディフェンスの完成度で、フォーメーションは4-3-1-2だが守備時は中盤の3枚が素早くボールサイドにシフトして数的不利をカバーするので、常に3人の攻撃陣が高い位置にいて攻撃への鋭い切り換えを実現している。そして単に攻撃的なだけではなく、状況によってはトップ下とFWの1人がゾーンをカバーする4-1-4-1のような形にも変化する柔軟性も併せ持っている。

前半の40分にこそ、中盤でのミスからカウンターを食らって4対3の数的不利から失点してしまったが、それ以外ではラインを高く上げたコンパクトな陣形を保ちつつサイドへの素早い対応でミランの両SHである本田とボナベントゥーラをフリーにさせず、メネズの中央突破以外での有効な攻め手をミランは最後まで持つ事が出来なかった。もしエンポリに決定力があれば、軽く3点は取られていたはず。

こういう相手に対しては、いくら組織が徹底されているとは言え中盤の3枚が左右にシフトする時間はかかってしまうわけで、素早いサイドチェンジで中盤がシフトする前にSHが基点を作り、そこにSBがオーバーラップを仕掛けて相手の守備を1枚剥がし、SBがフリーなら縦パスを、SBに相手の守備が付いて行けば中でフリーになるボランチや引いてくるFWにパスをつなぎ、そこからまた自分が前に出るというコンビネーションが必要になるのだが、いかんせん本田の後ろはアバーテではなく本来がCBのラミではどうしようもない。

中に入ろうとしてもデストロとメネズが邪魔をし、ボールを持っても誰もオーバーラップしないのであれば、個人能力で1対1を突破出来ない本田のような選手を起用してもどうしようないのは当然である。この試合でも数少ないがいくつか意表を突くアイデアを見せたように、本田はパスコースさえあれば仕事を出来る選手なのだが、味方の誰もコースを作るような働きをしてくれない今のミランでは本当に宝の持ち腐れである。

DFには怪我人が続出してパレッタやアントネッリといった新加入の選手を使わざるを得ず、中盤はほぼピークを過ぎた潰し屋ばかりでゲームが作れない現状では、単にそこそこの個人を並べても弱いチームしか出来上がらないのは当然で、戦術という明確な武器を用意できないとこれから光明を見出すのは難しいだろう。監督を変えないのであれば、副官にプロの戦術家を用意する。それが今のミランに出来る唯一の手段だろう。

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