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「攻撃や守備ではなく、効率こそが答え」ブラジルワールドカップ全体総括

スペインやポルトガル、日本といったパスサッカーチームの早期敗退と、オランダやチリなど5バックカウンターチームの躍進で、すっかりポゼッションサッカーの終焉といった論調がまかり通っていたブラジルW杯だが、最終的に優勝したのはパスの総数と成功率でトップの成績を叩きだしたドイツになった事で、いまいち大会の戦術的テーマが曖昧になりつつある。

しかし、攻撃的、守備的という軸で判断するから混乱するのであって、今大会で上位に食い込んできたチームを見ると、「効率」という軸で共通するものがあると思っている。

ドイツは、ユーロ2008と南アフリカW杯でスペインに苦杯を喫した事から、スペインと真っ向勝負のパスサッカーを構築するためにバイエルンにグアルディオラ監督を招聘、有力なドイツ人選手を集結させてクラブレベルから代表の土台を作りつつ、代表ではよりブラジルの気候に合わせたショートカウンターを磨くという、戦略・戦術面の徹底した効率の追求が花開いた成果だと言える。

アルゼンチンは、メッシというスーパースターを最大限に活かすために、他の10人がひたすらメッシをサポートする体制に集中した。メッシをサポートするディマリアの故障、アグエロの不調、そしてメッシ自身が決勝トーナメントで下降線をたどってしまったために優勝には至らなかったが、1点集中の効率性という面では研ぎ澄まされていたチームであった。

オランダはまさにスペイン対策が全てだった。縦には強いが横の揺さぶりに弱いDF陣でスペインに対向するため、5バックが徹底してバイタルエリアに入る選手をチェックし、ロッベンとファン・ペルシというスペースを与えたらワールドクラスの2人で攻めるサッカーが見事に当たり、結果的にそれがブラジル大会全体の戦術傾向にもフィットした。

単に効率という点で考えると、欧州で実績を積んだ2列目の選手を活かすためにパスワークを中心に据えた攻撃的なサッカーを行い、攻守の切り替えは日本人のアジリティと運動量でカバーするという、日本の方向性は決して間違ってはいない。問題は、頼みの欧州組のメンタルとフィジカルのコンディションが整わなかった事と、戦術面、特に守備における規律が浸透しきれていなかった点にある。そして、手数をかけたショートパスオンリーなスタイルはブラジルという環境における効率は最悪で、ドイツなどに比べて戦略レベルでの検証がいかにも浅過ぎた。

何より、ワールドカップという各国が対戦相手を研究し尽くしてくる短期決戦では、ネイマール1人が抜けただけで何も出来なくなってしまったブラジルを見ても、いかに素晴らしい攻撃を作ったところで崩壊するのは一瞬であり、防御は最大の攻撃と捉えてまずは守備組織をしっかり作り上げる事が効率的なのだという現実を思い知らされる。

残念ながらその観点で見た場合の日本の評価は非常に低い。個人としても組織としてもレベルが低く、本田や香川の両エースは攻撃に意識が行き過ぎて守備に負担をかけていた。Jリーグを見ても1対1よりはまず縦を切ったりスペースを埋めるなんちゃってゾーンディフェンスがほとんどで、そこを突破する強力な攻撃もほとんど無いぬるま湯状態である。若年層ではようやくゾーンを意識した育成が行われ始めているようだが、1対1についての将来性は相変わらず暗い。

とは言え、世界に通用する守備への道に近道は無い。若年層を教える指導者の育成、激しいプレイであっても汚いかフェアかを判断できる審判、ACLでJクラブをサポートする体制、何よりサポーターの見る目など日本サッカーの枝葉末節に至るまで大きく変化しなければならない。岡ちゃんが言うように、単に代表監督の首をすげ替えるだけで解決出来るような問題ではないのだ。せめて、今大会のノイアーやマスチェラーノの活躍を見て、守備的選手への子供たちの人気が高まってくれるといいのだが・・・

内田は大会後に「世界は近いけど広いなあ」と語ったが、おそらく内田個人では世界と普通に戦えていても、それが11人の集合体となったとたんに二次元的に差が広がってしまう。日本が今大会で直面した壁の大きさ、果てしなさというものをある意味明確に表現している言葉であるように思う。

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