旧閑ガゼッタ

「日本が子供の夢から覚める時」ブラジルW杯日本代表総括

ビッククラブに在籍する攻撃選手を抱えて過去大会で最高の成績を目論んだ日本代表だったが、いざ蓋を開けてみればドイツ大会と変わらぬ勝ち点1、グループ最下位での敗退と、完全に日本の期待を裏切る結果に終わってしまった。

そして昨晩にザッケローニ監督の退任が発表され、これでザックジャパンの4年間は終了する事になった。

W杯で失敗した原因にはいろいろな理由が考えられるのだが、最も大きなポイントはW杯に臨む上での大きな戦略面の失敗にあったのではないかと思っている。

所詮は「自分たちの自分たち」

今大会で良くも悪くもキーワードとなってしまったのが「自分たちのサッカー」。つまり、リアクションではなくて自分からリスクをかけて高い位置から攻撃を仕掛け、人とボールが早く動いてゴールに迫るスタイルなのだが、結果的にそのサッカーが出来た時間はコートジボワール戦の前半20分間と、コロンビア戦の前半45分のみで、その他の200分間は全く日本が意図していない内容に終わってしまった。

オランダとベルギーとの親善試合で結果と内容を出し、強化試合でも16強に進んだコスタリカも含めてそのスタイルで連勝していて、実際にコートジボワール戦で先制点を上げ、そこまでは完全に日本のプラン通りではあったはず。

ところがザックにとって誤算だったのは、そこからいきなり日本のメンタルが「負けたくない」とネガティブ方向に逆回りし始めた事。ザックはそれを軽く考え、後半から遠藤を入れればスイッチが入ってまたポジティブに戻ると思ったのだが、結果的にはそれがさらなる守備の穴を生む結果になってしまった。

さすがにザックも2戦目は深刻に考え、香川を外してギリシャ相手に戦術的な策を施し、相手の選手を退場に追い込むところまで持ち込んだ。が、ネガティブマインドはカウンターに対する恐れとなって日本の足に重りを載せてしまい、せっかくのプレゼントチャンスをフイにしてしまう。3戦目のコロンビア戦でようやく吹っ切れたものの時既に遅し。

つまりは、自分たちのサッカーが出来ている時は良いが、それが出来なくなった時のプランBが用意されていない、柔軟性やリスク管理の欠如がむき出しになってしまったと言える。

ただ、それをザックだけに責任は押し付けられない。ザック自身は、3-4-3を試みたり縦に速いサッカーを指導したりしていたが、本田がショートパスで行きたいと直談判したと書かれているように、プランBを拒否したのは選手自身である。南アフリカでの守備的・放り込みサッカーに対する悔いが長友や本田、遠藤といった中心選手に根強く残り、とにかく攻撃的にショートパスで行きたいという欲望に取り憑かれてしまった。そしてなまじプランAで行ったコンフェデや親善試合が良い内容だっただけに、他の選択肢が完全に視界から消えてしまった。

監督の意向と選手の意向が真っ向から食い違った場合、監督が取りうる手段は反抗する選手を外す事だが、代表選手のほとんどがショートパス志向である以上、ザックの現実的な選択肢は選手を尊重するか辞任するかのどちらかしか無かった。そしてザックは前者に賭けたものの、肝心の本大会で本田、香川、長友、長谷部、遠藤らの”意識の高さ”は単なる理想の上滑りで終わってしまった。現実だけを見ていた内田が大会で最も活躍したというのは皮肉と言うしか無い。

本来、「自分たちのサッカー」とはギリシャやアメリカのように、誰が出て来ても同じサッカーをやり遂げられるDNAのようなものであるはずなのだが、日本にあったものは中心選手だけが考えて実行できる、普遍的に共有されず相対化されていない「自分たちの自分たち」に過ぎなかったのではないか。そういう思いがしてならない。

最後まで放置された守備力

純粋にサッカー的な意味で日本の敗退理由を述べるなら、3試合で6点を取られた守備力という事になる。

守備力については自分たちのサッカーを志向し始めてからずっと付きまとってきた問題で、CBはラインを高く保ってフィードを重視する人選だし、攻撃はサイドがガンガンオーバーラップする上に、前線のポジションチェンジでゾーンバランスが保てずプレッシングがかけにくい、本田や香川にスピードと個人守備能力が無いのでフィルタにならないという四重苦。

ザックはそこを何とか守備の戦術指導と攻撃時のポジションバランスを口うるさく言うことで解決しようとしていたが、結果的にはその守備に対する成功体験の薄さが自信欠如につながり、コートジボワール戦のひきこもりとギリシャ戦のビビリを招いてしまった。

この守備力については、代表うんぬんではなくて日本サッカー全体が抱える宿題でもある。オランダやイタリア、スペインでは若年層からゾーン意識が徹底され、寄せ集めのメンバーでもちゃんと統率されたゾーンディフェンスが出来るようになっている。ところが日本はそこが全くの手付かずで、守備の人数が揃っていてもポジショニングがバラバラで、簡単に間をパスでスコスコ抜かれてカウンターを決められてしまう。

日本代表の選手でさえ、ザックがディアゴナーレ&スカラトゥーラを手取り足取り教えないといけないほどで、まともにゾーンディフェンスをマスター出来ているっぽいのは内田と吉田ぐらいで、長友は今やほとんど3バックの選手でDFじゃないし、酒井高徳と酒井宏樹は最近までポジショニングがむちゃくちゃでサイドで抜かれまくっていたぐらいだ。長谷部もポジショニングに問題を抱えていてクラブではダブルボランチ以下の人数で使われる機会が少ない。人に食いつきまくる細貝はなおさらである。

かと言って、当然ながら日本選手は対人が強いわけでもない。今野のPKを与えたプレイに代表される個人リスクマネジメントの欠如は代表監督が言って治せるものではない。もし対人が強ければマンマーク戦術という可能性も出て来るが、コロンビアやオランダのようにカウンターから1人で点を取れる攻撃選手がいないと意味が無い。残念ながら、現状ではどちらにしても詰んでいる。

しかし守備力向上に近道はない。ユース世代から守備組織と個人戦術を叩き込み、ユースの遠征や世界大会で経験を積み、JリーグではACLでアジア勢を抑え、守備の選手も欧州の舞台で活躍出来るようになって行く必要がある。攻撃選手もトップ下専門ではなく、サイドでも走って守れないとトップクラブでは使ってもらえない。そういう意味では、山口や青山、森重の成長には是非とも期待したい。

センターフォワードの不在

今大会で強豪と目されながらもグループリーグで敗退したチームには、FWが期待ハズレだったという共通点がある。イングランドのスタリッジ、イタリアのバロテッリ、スペインのジエゴ・コスタ、誰かいたっけのポルトガル。逆に、ファン・ペルシとロッベンが3得点のオランダ、同じく3得点のベンゼマがいるフランス、ミュラーのドイツ、そして4得点を叩きだしているネイマールのブラジルは順調そのもの。メッシも手抜きながら最後にはチームを勝利に導いている。短期決戦になればなるほど、FWの出来が勝敗を左右するのだ。

日本は、前田から柿谷、それがダメなら大迫、大久保と1トップをとっかえひっかえして来たが、現実は本大会で不調にあえいでいるはずの本田が1得点1アシストと一番の結果を出している始末。これでは例えミスが多くても監督は代えられない。前線の日替わりポジションに噛み付いているマスコミは多いが、クローゼやスアレスを見て分かる通り、いついかなる場合にでもちゃんと結果を出すのが一流のFW。そういう存在が日本には居なかっただけの話だ。

環境という敵にも負ける

今大会は、高温多湿と多雨、劣悪なピッチ、長距離移動と気候の大差という環境が大きく影響し、コンビネーションが命のパスサッカーを志向するスペインやポルトガルが沈み、中盤にテクニシャンを置いたイタリアやクロアチアも敗退、逆に悪条件がお手の物な南米勢、パワーサッカーのアメリカやフランスといったチームが躍進している。日本がその影響を受けたのは確かだろう。

ただ、それにしても本来日本が武器としているはずの運動量で相手を上回れた試合が、3試合のうちの1度も無かったのは大誤算と言える。故障明け選手が多かったのもあるが、それ以前にフィジカル的な準備がきちんと出来ていなかったのはないかという疑いが濃い。特に、暑いマイアミから涼しいイトゥでキャンプをし、再び暑い会場で試合をするというプランは本当に正しかったのかどうか。最初の2試合が重要なのは分かっていたのだから、東海岸沿いのキャンプ地で良かったのではないか。ドイツ、ブラジルとコンディション作りに失敗した原因を突き止めないと、またぞろ同じ失敗が繰り返されてしまうだろう。

幻想を捨て、現実に目覚めよ

極めて少ないけど、今大会で代表にとって良かったと思われる点としては、先の戦評でスタートラインに立ったと書いたが、日本がW杯に初出場して以来16年間抱え続けていた「幻想」をやっと捨てる事が出来たのではないかという部分だろう。

98年の時はパス回しは通用したし城じゃなくてカズがいれば、2002年の時は赤鬼戦術でがんじがらめじゃなくて自由があれば、2006年は川淵がジーコに丸投げジーコは選手に丸投げオシムって言っちゃった、2010年はいきなりの方向転換でただ守って結果を出しただけというエクスキューズが常にくっついて来た。

しかし今回は、全てを日本がやりたいサッカーに照準を据えて4年間を準備した末の残酷な答えが出てしまった。マスコミはザックや香川、本田あたりを嬉々としてスケープゴートにするのだろうが、選手が語っていたように結局はまだ力不足なんだという理由以上のものは無いはず。

日本は個の能力で劣るからチームワークで、という頼みの綱も、コンディションやメンバーの変更、ピッチや気候、相手の研究次第でズタズタにされてしまい、やはり最後は個であるとの現実を突きつけられた。一長一短がある選手を机上で組み合わせて理想のサッカーだと悦に入るのではなく、まずは全てのレベルで世界と戦える選手を11人揃えないと、W杯のような総力戦では勝てないのだ。

そういう現実を確認するだけのためにこの4年間が終わったと思うと虚しいものはあるが、世界へのデビューから16年しか経ってない日本は中二病というか精神的に子供のようなもので、成長過程においては一度はぶち当たるべき壁だったのだろう。ザックは日本をリスペクトして大人として扱ってくれたが、やはりまだオシムのような厳格な教育者が必要なのかもしれない。その辺を、サッカー記者には一度じっくりと本田に問うて欲しいものだ。

ザックジャパンは、間違いなく今までで一番強い日本代表だった。ただ、確かに世界に追いついた部分はあるものの、足りない部分もまだまだ多いというだけの事。そして足りない部分もはっきり分かっている。後はそれを我々も含め日本サッカー全体が認識して実行できるかどうか。4年後のリベンジはそこにかかっている。