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「同情するなら金をくれ」JリーグがACLで勝つために(前編)

このエントリーを書き進めていた時に、Twitterのタイムラインで同じような論説のページが紹介されていて、これは最近流行りの”剽窃”に思われてしまうんじゃないかと思ってお蔵入りにしようかと考えたのだけど(笑)、浪費した時間がもったいないのであえて公開する事にした。

残念ながら、2014年のACLでJリーグ勢は2年ぶりに決勝トーナメント1回戦で全て敗れてしまい、2008年以来果たしていないACL優勝の機会は今年も失われてしまった。

日本代表はW杯常連になるほどアジアでの実力はトップレベルなのに、何故リーグではアジアにすら歯がたたないのか。当然、そこには複合的な要因が絡んでいるわけだが、端的に集約すると「金」の問題に尽きるのではないかと思う。

ぶっちゃけ、Jリーグ勢には金が無い。金が無い理由というのもやはり複合的ではあるのだが、Jリーグの存在意義、理念に係る部分が大きいのが頭の痛いところである。

地域密着の理念

Jリーグは、「100年構想」という地域におけるサッカーを核としたスポーツ文化の確立を目指す計画が活動の骨子となっている。そのためクラブの名前からは企業名を排除し、地域名のみを表示する事を義務付けている。かつてヴェルディに読売という企業名を入れようとした渡辺恒雄氏と川淵氏の対立は良く知られている通りである。

しかしこれは、企業にとっては企業名がチーム名になっているプロ野球などに比べると広告価値としては劣るわけで、しかもプロ野球のように税金での優遇を受けているわけではなく、結果的に企業からのスポンサー料については広く浅くにならざるを得ない。しかもバブル崩壊以降は企業の収益が悪化し、親会社を持たず営業力に劣る地方クラブの経営は非常に厳しくなっている。

放映権の分配

欧州ではクラブがテレビ放映権の権利を握っている国もあるが、Jリーグではリーグ側が一括して受注、各クラブに分配する形になっている。

これはクラブの収入格差を是正し、地域格差を無くして全国的にクラブの浸透を図るという狙いがあるのだが、上記の理念によって地域密着が進んだため全国区のクラブが育たず、そのクラブがある地域の視聴率が高くても東京では関心が無くて低くなってしまうために、全国に放送枠を持つ東京キー局がJリーグの放送をしなくなってしまった。

現在ではスカパーがJリーグの放映権を獲得しているが、放映権料は長らく頭打ちの状態が続いており、スカパーは全試合放送だが有料であるために、本来新規ファンとして獲得すべき一般ライト層がJリーグを見る機会はほとんど失われているというデフレ・スパイラルに陥っている。

クラブライセンス制度

欧州トップリーグにおける、高騰する一方のスター選手移籍金、金満オーナーの私財による乱脈経営、経営破綻が国家経済を巻き込むレベルにまで膨張した経済状況を打開するため、UEFAではファイナンシャル・フェアプレーという概念が導入され、Jリーグでもそれに倣う形でクラブライセンス制度を発足し、赤字が続くクラブにはライセンスを発行しないというペナルティを打ち出した。

これにより、スポンサー料という名目での親会社による赤字補てんが常態化していたクラブについては、緊縮財政へと方針を変更せざるを得ず、高額なベテラン選手や外国人選手の放出が相次ぎ、今までビッグクラブと見なされていたチームのレベル低下をもたらしている。

ACLの費用対効果

Jリーグではどこのチームも財政的には青息吐息な状態なのに、ACLに出場することについて知名度以外のリターンはほとんど無いのが実情である。

ACLの優勝賞金は1.5億とJリーグの優勝賞金の2億よりも低く、最近やっとこさJリーグから補填が出るようにはなったが、遠いアジア各国への遠征費は原則的にクラブ側の持ち出しである。しかもACLの開催日は平日のミッドウィークに当たる場合がほとんどで、ホーム試合を開催しても観客数は望めない。

そうなると、土日開催のリーグ戦のほうがクラブ経営にとっては重要なわけで、他国ではリーグ戦のスケジュールを変更してACLのために余裕がある日程にしたりする事はあっても、Jリーグではほとんどそれは考慮されない。おかげで今年も、GW中の集中開催から過密日程が続いたままACLの決勝トーナメントを戦う事になってしまった。

クラブ側はあまり表立って優先順位について語ったりはしないが、明らかにACLよりもリーグを重視しているだろうという選手起用がJクラブには少なくない。サポーターからはクラブW杯の出場権がかかった決勝以外は罰ゲームと揶揄される所以である。

中韓クラブとの財政格差

オーストラリアのAリーグについては、もともとJリーグをモデルとしているだけに堅実経営だが、中韓クラブの場合はほぼ野放し状態で、Kリーグや中国スーパーリーグのクラブ名には当然のように企業名が並んでおり、最近はウォン高で韓国の勢いはやや落ちたものの、ほぼ企業の広告塔として無尽蔵の補填を受けている。ACLも一応ファイナンシャル・フェアプレーを導入してはいるが、中東の状況を見ても全くガバナンスには期待できない。

広州恒大に至っては、リッピ監督やコンカ選手に年俸10億円、ディアマンティに6億、ACLでの勝利給が1試合あたり2億という金満ぶりなのに対し、Jリーグは「年間収入」で最高の浦和が53億、ACL出場の川崎や広島でせいぜい30億といったところで、広州の外国人選手の給料合計と変わらない。資金力だけを見れば、オランダリーグとプレミアリーグぐらいの差はあると言って良い。

Jクラブは金が無いから良い外国人選手が取れず、有望な若手選手は年俸の高い欧州リーグへと移籍してしまう。過密日程でターンオーバーを図るだけの戦力を維持できず、J2に降格でもすればさらに財政は悪化してしまうためにACLの試合にしわ寄せが行く事になる。逆に中韓はリーグでの採算など頭から考える必要がなく、いきおいACLのような名誉を得てクラブ=企業に箔を付けるほうを重要視するので、互いのベクトルはほぼ真逆と言って良い。

戦力の集中と均衡

Jリーグは以上の収入構造とクラブライセンス制度によって、自然と全てのクラブは戦力が横並びになり、J1ではどこが優勝するか毎年分からないエキサイティングな争いになっているが、逆に言えばACLの出場権を獲得するチームも毎年コロコロ顔ぶれが変わるという事でもある。ただでさえJリーグではアジアのようなフィジカルサッカーや荒れたピッチという環境への経験不足が指摘されているのに、継続して経験できない状況では毎回出場の度にリセットされて積み重ねが生まれない。

今期を見ても、代表経験のあるベテラン選手を多く抱えた横浜Fマリノスがグループリーグで敗退し、昨期はグループリーグ最下位に終わったサンフレッチェ広島がベスト16まで上がったのを見ても、選手個人ではなくチームへの継続した経験こそが重要なのは確かである。

逆に中韓のクラブでは財閥や大富豪が所有しているクラブ、FCソウル・全北現代・水原三星・浦項や広州恒大・北京国安・山東魯能・天津泰達といったところが常連となっており、戦力が集中しているところに毎年の経験が積み重なり、より強化に拍車がかかるという循環が生まれるなど、ここでもJとのベクトルの違いが鮮明になっている。

日本代表との差異

対する日本代表の場合、地域密着の対象は日本国で放映権料もスポンサードも湯水のごとし。マスコミへの露出はメディアジャックに近いレベル、スケジュールは重要な大会では国際Aマッチデーで保護されるなど、ことごとくJリーグとは正反対の常時追い風状態である。

しかも近年では代表に対する海外組の割合が増え、代表に注目が集まれば集まるほどJリーグの影が薄くなるという、デフレ・スパイラルがこちらにも生じている。もし国内組で戦った東アジアカップが無ければ、柿谷やセレッソがここまで知られることは無かっただろうし、おそらくフォルランも日本には来ていなかっただろう。同じ日本のサッカー界にあってその格差たるや恐ろしい限りである。

結論:即効的な解決策は無い

つまりACLで日本勢が結果をなかなか出せないのは、アジアの中で日本が単純に弱いというわけではなく、Jリーグの収益システムの不調がもたらしている構造的問題に依る部分が極めて大きいと結論づけられる。Jリーグ側も当然ながらその問題は認識しており、是非はさておきJ1を2ステージ制にしてみたり、東南アジアへの販路開拓など手は打っているものの、決して即効性があるものではない。

とは言え、それならアジアで勝てないのも仕方ないと諦めるのも癪なので、次回は貧乏でも出来るACL対策というテーマについて書いてみたいと思う。

 

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