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遠藤スーパーサブがもたらした成果と悩み

10月のセルビア戦、オランダ戦の沈滞した試合から、わずか1ヶ月で見違える内容と結果をもたらした今回の欧州遠征。

その最も大きな要因は、本来の日本サッカーの美点である組織と献身性、戦術的にはコンパクトな守備陣形と前方からのプレスを選手全員が確認、共有できた事と、本田や香川、岡崎、長谷部が一時の不調から脱した事にあったのはもちろんだが、それを裏から支えたのはザックの柔軟な選手起用だったように思う。

ザックがいきなり硬直的な「ベストメンバー」から、思い切ってターンオーバーを使って来た心変わりについては、原委員長の指示だとか、誰かの助言があったからだとか妙な邪推がされているが、以前のコラムでも書いたように、遠藤と本田、香川を先発起用した場合の弊害に気づいたからではないかと思っている。

特にポイントになったのは、遠藤を2戦ともスーパーサブとして起用した事だろう。遠藤は、良い意味でも悪い意味でも「無理をしない選手」である。守備ではスペースはちゃんと埋めるが追いかけまわしてガツガツ当たりに行ったりはしないし、攻撃ではパスコースが無ければ無理をせず横や後ろにパスを回してビルドアップし直す。

もちろん、それはそれで代表にとって必要不可欠な仕事なのだが、本田も香川も遠藤をリスペクトして彼のパスに依存しているために、結局は遠藤の世界観にチーム全体が引きずられ、ザックが重視するインテンシティの高いサッカーにつながらない。そこで、遠藤の代わりにインテンシティだけで生きているような山口を投入し、チームに明確なメッセージを与えようとしたのだろう。

ただし、それはある意味大きな賭けだった。まだ経験の浅い山口は、オランダ戦もベルギー戦も危うく失点につながりそうな縦パスのミスをしているし、つなぎのパスも判断やパススピードが悪くてカットされそうになった場面が何度もあった。もしそれが失点になっていたら山口の起用が総バッシングを受けて全てのプランがひっくり返ってしまったかもしれない。しかしザックは賭けに勝った。

さらに、遠藤を後半から投入する策は別のメリットをもたらした。遠藤が前半から出ると対戦相手はマークをしっかり付けてくるが、後半からだとかなりそれが曖昧になる。ベルギー戦では、遠藤が出て来た際にはフェライニをマークに付けて来たが、結局は付ききれずに本田へのアシストをさせてしまった。そして遠藤は90分走り回る体力が無く、どこかである程度手抜きをしないと持たないのだが、45分間なら考えなしに飛ばし切ることが出来る。

とは言え、W杯でもこれで良いかというと悩ましいところ。本番の場合は交代枠が3に限られ、GKの万一を考えると早めに切れる交代枠は2しか無い。その1つをボランチに毎回使ってしまうのは戦略的な幅が無いも同然になってしまう。インテンシティとパスワークのバランスをこれからどうやって取って行くのか、それがこれからブラジルW杯までの大きな課題になりそうだ。

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