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ザックジャパンの本当に深刻な問題

2連敗に終わった欧州遠征から3日が経ち、その間あちこちの言説を見て回っていたのだけど、ザックが無能だとか選手任せだとか、Jリーグで結果を出している選手を選んでないだとか、そんで更迭すれば万事解決みたいな短絡的な意見ばかりで本当にげんなりしてしまう。

ザックジャパンが直面している根本的な原因については、ベラルーシ戦の後に何となく思い浮かんでいたのだけど、書きだすと長くなる話なのであえてそこまで突っ込んではいなかった。でもその辺の言及をしている意見を今までほとんど見なかったので、ここらでちょっとまとめて書いてみる事にする。

端的に言うなら、今のザックジャパンは「太陽が見えなくなってしまっている状態」なのではないかと思っている。

太陽とは、これまで築き上げてきたザックジャパンのサッカーの根幹をなす部分である、遠藤-本田-香川のラインを意味する。遠藤の試合の流れを読む能力、本田のキープとキックのパンチ力、香川の足技と反転力が組み合わさる事で、イタリアをも脅かす攻撃力を体現していたのである。

しかしこの2試合、特にベラルーシは彼ら3人全てにマークをびっちりと付けて日本の太陽を覆い隠す作戦に出て来て、それがまんまと成功してしまった。彼らが3人とも好調だったり、相手がアジアだった場合は、そんな簡単に太陽を封じ込める事は出来なかったのかもしれないが、香川が不調で本田も遠藤も本調子ではない状態では、相手にとってはとても容易い仕事だっただろう。

そして日本の場合、さらに厄介なのはプレイだけではなくてメンタル面でもその3人、特に本田が太陽のような強い重力を持ってしまっている事だと思っている。

一般的に、サッカーチームの中でリーダーは必要不可欠とされている。特に個人の自己主張が激しい欧米の場合は強いリーダーシップを持った選手が居ないと、各自がてんでバラバラのプレイをし始めて収集がつかなくなってしまうからだ。

ところが日本の場合、元から個人よりも組織を優先するという意識があるため、下手に強いリーダーシップを持った選手がいると、そこに全員が引っ張られて個人が殺されてしまうのだ。メンタルで弱気になりがちなアウェイになるとその傾向は余計に強くなり、まとまりはするんだけど出来上がったチームのスケールは非常に小さく凝り固まってしまう。だからなおさら相手にとっては太陽の存在が消しやすくなるという悪循環。

でも一応まとまっているのだから良いのでは、と思えたりするのだが、そのまとまりは各自が自分を押し殺しての表面的な結果に過ぎず、ドイツW杯でのジーコジャパンを典型例として、うまく行かない状態が続くとふとしたきっかけで「実は俺も前から不満が・・・」てな感じであっという間に空中分解してしまう。

本田にしても香川にしても長友にしても、所属クラブでは何よりもチームとして自分のプレイがどうあるべきかを考えて試合に出ているのが良く分かり、クラブではそれがプラスの方向に働いているのかもしれないが、日本代表ではその思いが強い重力となり、「ブレない事が大事」と味方のみならず彼ら自身の視野さえもどんどん狭めているように見える。

個人的に心配しているのは、メンタルが日本人と似通っているせいかもしれないが、試合後の談話などを見ているとザックがそこの問題に気がついていないのではないかという点にある。そしてコンフェデのイタリア戦でなまじ攻撃が通用してしまっただけに、その成功体験に囚われてしまっているようにも見える。

その意味で正反対だったのはトルシエで、彼は悪い意味での日本人らしさを否定し、終始リーダーシップを選手ではなくて監督が持つものだとチームのみならずメディアや協会に挑戦し続けた。彼は「日本人は赤信号というわけで車が来ていなくても渡らない」と批判したが、その裏にある「車が来ていてもリーダーが青と言えば渡る」危険性に気づいていたのかもしれない。

さらにトルシエ自身は、実はW杯で中田を外すことを検討していたらしいが、日本中を敵に回すことを恐れた通訳のダバディらの意見を受けて止めた結果、本番では中田が本来の戦術的な意図とは違う働きをしていまい、結果はベスト16に終わってしまった。

だからと言って、当時の中田外しが正解だったとは思わない。所詮、試合における監督の役割は万能ではなく、あくまでピッチ上にいる選手の臨機応変なプレイが勝敗を分ける決定的なディテールになるわけで、トルシエのやり方には自ずから限界がある。

オシムの場合は、そういった日本人の特質を知ってたかどうかは分からないが、リーダーを必要としない各選手が自分で考えて走るサッカーを作り上げようとした。オシムが指名したキャプテンはGKの川口だし、レギュラーとして重用したのは「水を運ぶ」鈴木啓太のような選手であり、攻撃のタクトを独り占めする選手は好まなかった。そもそもオシムだったら、本田や香川であってもコンディションが悪ければためらいもなく外すだろう。返す返すも、そういうサッカーがW杯で見られなかったことが惜しまれる。

では、これからザックはどういう手段を取ればいいのか。ベストは、欧州組の調子が上がってそれがチーム全体のダイナミズムにつながる形だろう。しかし、オランダとベルギーの試合に間に合うとは思えないし、同じメンバーで同じようなサッカーをしたら惨敗は確実で、今度こそ空中分解の可能性が出てくるだろう。

1つは、ザックが自分こそが太陽であると欧州組に納得させ、個人の好み云々ではなくチームとしての戦術を徹底させる事だ。性格的にトルシエのような強権は難しいだろうし、それで失敗した場合にザックの求心力がさらに落ちる危険性はあるが、やはりこれが監督としての王道であり、それが出来なければジーコと同じレベルになってしまう。

2つ目は、太陽を為している3選手から1名以上をいったん外し、例えば内田のように重力の影響を受けないマイペースな選手、または乾や細貝のような3人とは少しプレイのカルチャーが異なる選手を加えて、重力のドツボから少しでも解放されるように仕向ける事。山口螢が言ったように、柿谷・清武・山口のセレッソ重力圏を別に作ってみるのも手かもしれない。

とにかく、次の欧州遠征は本番でのチーム作りの課題・材料を見つけるための、最後で最大の機会である。今回のように、何もアクションせずに何も持ち帰ることが出来なかった、という結果にならない事を願うばかりである。

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