「柏木、本田、中田を結ぶ線」アジアカップ2011 グループB サウジアラビア-日本(0-5)

試合前の予想では、プレッシャーが無くなったサウジは手ごわいかもと思っていたのだが、蓋を開けてみればモチベーションも規律も無くなったサウジになってしまっていた。
サウジは一応ラインを上げて攻勢に出る腹積もりだったようだが、日本の素早いプレッシャーの前にDFラインが裏を取られまくり、そしてマークもゆるゆると来たらあのアジアキラーが活躍しないはずがなく、遠藤と香川からの裏取りボールをきっちりと決め、今大会まだ得点が無かった前田も長友からのおいしいクロスを決めて、わずか前半の20分でもう勝負はついてしまい、それ以降は日本にも少し緩みが出てダレる展開にはなったが、伊野波、岩政、本田拓と、カードを受けた選手を下げてサブメンバーを起用する余裕を見せての堂々たる大勝。
日本はケガの本田と松井が抜けて、岡崎はともかく柏木をトップ下にするビックリ采配。しかし、この起用によってザックがトップ下に意図するものがはっきりしたように思う。
柏木は、90分を通していわゆる「トップ下」のポジションにはおらず、中盤での守備に参加してはボールをシンプルにつなげる役割に徹し、その動きで開いたスペースを香川や前田、岡崎が流動的に使って、縦に早くポンポンと回る攻撃を作り出していた。
本田や松井は、守備に動き回るよりもまずはボールをキープする性向が強く、それはそれでシリアのように激しくプレッシャーをかけて来る相手には効果的ではあったのだが、遅攻で点が取れる強力なFWがいない日本にとっては、ピンチにはならないけれどもチャンスにもなかなかなってくれないジレンマがあった。それが悪く言えばシンプルにボールをつなぐしか出来ない柏木が入ったことで、どういう攻撃をするかという意思統一がはっきりしたと言える。
この試合での柏木の働きで思い出されたのは、2002年の3月にアウェイで2-0と快勝した、トルシエジャパンのポーランド戦である。
当時は中田英が日本のトップ下として君臨していたが、ローマやパルマではトップ下以外のポジションで起用されることが多く、中田は日本代表でもトップ下にありながら積極的に守備参加することでトップ下のスペースを空け、そこに前線や2列目、3列目の選手が流動的に入り込む事で攻撃に縦の流れを作り出し、それが好結果につながっていた。
ところが、W杯の本大会ではベルギー戦での失点を受けてDFラインが下がり気味になり、中盤で孤立した中田は自分ひとりで攻撃を何とかしようとするあまり、旧来のようなトップ下に居座るプレイになってしまい、ポーランド戦のような流動的なスタイルは影をひそめてしまったのだった。
その当時からすると選手も成熟し、本田も中田ほど自分のスタイルを押し付けるプレイはしないが、サウジがあまりにもアレだったとは言え、この試合の内容に刺激を受けて、より流動的にボールと人が動くサッカーへと本田が意識を高めてくれると、アジアカップのタイトルが見えて来るのではないだろうか。