「個人戦術の勝利」全国高校サッカー選手権 準決勝 流通経済大学柏-久御山(2-2PK2-3)

実力の差ははっきりしていた。おそらく、5回対戦すれば4回は流経大柏が勝つぐらいだろう。しかしその少ないチャンスを久御山はきっちりものにした。
前半の流経大柏は、久御山のDFにまでマークをつけるオールコートマンマークのような守備を選択してきた。おそらく、DFから細かくパスをつないで来る久御山のペースを破壊する目的があったのだろうが、これが流経大柏にとっては裏目に出てしまった。
久御山の選手は、1対1程度のプレスであればそれほど動じず、足元で交わしたり上手く相手を背負いながらパスをつなげたりで最初のアタックをいなすと、その背後のスペースにいる選手へと長めのボールを送り込んできた。
流経大柏はマンマークとは言え、久御山の前線がバルサ式にワイドなポジショニングを取っていたので、スペースが空きすぎるのを恐れたのかマークの距離が遠くて完全に捕まえきれてなかった。10分の久御山の先制点はまさにその形で、一本のパスからDFの裏へと抜けだされてしまった。
流経大柏は後半7分までに3人の選手を入れ替える大胆な策を講じたが、これでようやく流経大柏らしいハイプレスサッカーにスイッチが入り、後半から久御山はほとんど自陣でパスを繋ぐことが出来ず、久御山はGK絹傘の好セーブで何とか耐えていたが、16分にはドリブルの切れ込みからPA内で流経大柏に数的優位を作られ、為す術なく同点に。
しかしこの試合では運が久御山に味方した。28分にようやく巡ってきたセットプレイの機会から、坂本が放ったシュートが柏の選手の足に当たり、ふんわりと上がったボールがゴールの隅に決まるラッキーな得点で再び久御山がリードする。
そこからさらに流経大柏は攻勢を強め、42分にようやく同点に追いつきはしたが、この日神がかり的な働きを見せていた久御山GK絹傘に3本のPKを止められてしまい万事休す。久御山が初の決勝進出を決めた。
流経大柏は怪我人が多くて万全のサッカーが出来なかった事が響いたとは思うが、高校生程度のマンマークに負けない久御山の選手の個人戦力を見誤った事も大きかったように思う。
久御山の先制点の場面でも、得点を決めた安川はブロックに入った柏の選手をうまく背中でスクリーンしながらファーサイドへと冷静に流しこんでおり、Jリーガーでもなかなか見られない体の使い方だったと言える。
今大会はかつての根性サッカーとは見違えるようなモダンスタイルを見せるチームが多くなった事に驚いたが、チーム戦術だけではなくて個人戦術という点でも向上を確認できた事は嬉しかった。ユース日本代表がダメだダメだと言い続けていたが、草の根レベルではしっかりと世界に通用する土台が出来ているのは頼もしい限りであるし、関係者のその努力が、現在ドイツを中心に花開きつつある日本選手の海外移籍の成功につながっているのだろう。
これで決勝は関西勢同士の戦いになったが、どちらも個人戦術を全面に出すタイプのチームなので、結果はもちろん内容も楽しみな試合になりそうだ。