「これこそ本当のアンチ・フットボール」南アフリカ・ワールドカップ グループA 南アフリカ-フランス(2-1)

それは実に奇妙な光景だった。
フランスは、この試合で2点差以上の勝利を挙げればまだ可能性があったのに、何故かフランスの選手は最初から無気力で、ボールを持ったほぼ全ての選手がパスコースを探してキョロキョロし、先発を6人入れ替えた影響があったのかもしれないが、Jリーグのオールスターでもまだこれよりは息が合ったサッカーになると思われるぐらいに、人もボールも全く動いていなかった。
好調な南アフリカの出足に為すすべなく、フランスは20分にCKをGKロリスがかぶってしまってあっさり先制点を許してしまうと、26分にはどう見てもイエロー程度にしか見えないグルキュフの競り合いの中でのひじ打ちが一発レッドとなりフランスは10人に。しかし、南アフリカの選手はフランスの選手を手で引き倒したり、後ろ手で顔に平手打ちをしてもイエローが出る事は無かった。
その後もやる気の無いフランス相手に南アフリカが3点目、4点目のチャンスを作るがボールをゴールに入れるだけの超絶好機を外してしまい、南アフリカはメキシコを得失点差で上回る機会をものに出来ないままで前半は終了する。
後半になると、何故か突然フランスが我に返り、南アフリカを上回る個人能力を生かして、徐々に足元から足元へとしっかりとパスを回し始め、それに対して南アフリカはじりじりと後退を余儀なくされ、運動量の低下もあって1人少ないフランスにペースが移って行く。
そして70分にリベリの突破から余裕の折り返しをマルダが決めて1点差に追いついたが、ゴールに入ったボールを急いで取り戻してセンターサークルに置こうとする姿は無く、その後もフランスは試合を何が何でも逆転させようと言う気迫も、叱咤も、憤慨も無く、ただ淡々と試合を運び、そのまま2-1でタイムアップ。その瞬間を迎えてもフランスの選手は誰一人ピッチに倒れこむ者は無く、薄笑いさえ浮かべてユニフォーム交換をしていた。
私のような陰謀論好きの人間からすると、まるでフランスは開催国を決勝トーナメントに進めたいFIFAの要望により、前半は手を抜くように要請されていたのではないかと勘ぐってしまうぐらい、フランスは最初から闘う事を放棄していた。きっとピッチにいた多くの選手は、冷え切った空気が流れている中でこのままホテルに缶詰されるよりも、家に帰ってバカンスを楽しんだほうがいいと思ったのかもしれない。いや、この試合をスタジオでオシムが見てなくて良かったよ(笑)。
チーム内の崩壊で、選手の中にモチベーションも何もまるで無かったのかもしれないが、サッカーとはピッチ内で何を見せるかが全てであり、この試合は国民に対してもアイルランドに対しても、全世界のサッカーファンに対してでさえ明らかな冒涜である。今大会のあちこちで叫ばれているアンチ・フットボールの称号は、謹んでフランス代表に進呈したいと思う。
それにしても、このドメネクをユーロの後に周囲の反対を無視して続投させ、今回の失態があっても本人は辞任する気はないと言っているフランス協会の会長は凄いよね。いや、日本も相当なものだと思っていたけど、上には上がいるもんだよなあ(苦笑)。