「兄弟の意地」ツール・ド・フランス2009 第17ステージ

例年であれば、個人TT前の下りゴール山岳ステージでは、TTに向けて力を温存したい総合争いの選手はそれほど大きく動かないパターンが多いのですが、今年は全く違うエキサイティングで自転車の戦略的な楽しみが満喫出来たステージになりましたね。
http://www.cyclingtime.com/modules/ctnews/view.php?p=11536
その大きな理由が、この日ステージを制したフランクと弟のシュレック兄弟の脚質で、彼らは上りこそ圧倒的な力を持っているものの、TTの力はライバル達に明らかな後れを取っており、コンタドールを打ち破ることはもちろんですが、このステージまで2位とは2分・3分の差を付けられていた表彰台争いにおいても、TTを得意とするランスやウィギンス、クレーデンをここで引き離しておかなければ非常に厳しい状況に陥る可能性が高かったわけです。
それは首位のコンタドールにとっても似た立場で、コンタドールはTTで速いとは言え、長距離のTTとなるとやはりスペシャリストのウィギンスに対して1分46秒差は逆転される危険性が少なくなく、まだ最後の決戦であるモン・ヴァントゥー頂上ゴールが残っているとは言え、ここに来てわざわざマイヨジョーヌを手放す選択はあり得ませんからね。
そのサクソバンクとアスタナという最大のライバルチームが手を組んで、とにかくウィギンスを蹴落とそうとする戦略は実に見ものでした。ついでにフースホフトの大逃げも(笑)。
まずは36kmで兄弟がアタックを仕掛け、コンタドールとクレーデンはついていったが、ランスはウィギンスをぴったりマーク。その後も先頭集団がウィギンス・ランスグループを引き離すがランスは動かずにウィギンスの様子をしっかり観察、そして最後の登りでランスはウィギンスを置いてアタックし、結局ランスのアシストが効いてウィギンスは先頭から3分遅れのゴールになってしまい、総合ではコンタドールから5分差の6位になり、アスタナにとっては脅威がかなり薄れる事になりました。サストレも8分遅れて完全に終戦。
コンタドールは最後の山で一旦アタックしかけ、クレーデンが遅れたのを見てスピードを落とした事で物議をかもしているみたいですが、最後を一人で下っても兄弟に追いつかれる可能性は高かったし、クレーデンやランスの表彰台がさらに遠のく事になるので、TTに備えて足を温存したチーム戦略だったのでしょう。もっとも、コンタドールにとってみればランスもクレーデンもTTが強いので、本音はそのまま逃げたかったかもしれませんが(笑)。
日本人選手は別府が29分遅れ、新城が35分遅れのグルペットで無事ゴール。これでパリがはっきり視界に入ってきましたね! ところで、別府のグルペットにはなんとエヴァンスがいたようで、別府選手にとってはかなり珍しく貴重な経験になった事でしょう(笑)。
さて今日はいよいよ今年のツール初の本格的な個人TTの出番です。コンタドール、シュレック兄弟、ニバリの総合争いはもちろんですが、このステージだけは全ての選手がアシスト関係なく勝負をすることが出来るので、クレーデンやプロローグよりは調子が上がっているはずのランスが、どこまでコンタドールに総合で迫れるかに注目したいところです。