書評 サッカーがウマくなる!かもしれない本 西部謙司 出版芸術社

一言で言えば、選手の技術や試合戦術について個別にスポットを当てて分かりやすく解説する本である。
前半が選手の技術で、後半がトルシエサッカーを題材にした戦術解説になっているのだが、戦術については正直さんざんネットで語り尽くされた当たり前の論理(と言ってもこの当たり前が今のマスコミでは貴重なのが情けない事だが)であって、あまり新味が無い。
それよりも前半である。
そこでは、サッカー選手の1つ1つのテクニックやその効能を細かく分かりやすく解説しているのだが、それが一筋縄ではない。
例えば、ジダンのフェイントの数々を説明しながら、プレッシャーのきつい現代サッカーにおいて「フリーになれる価値」の重みを指摘している部分がある。これは、フランスとアルゼンチンが3トップへの厳しいマークと司令塔役の不調や欠場により、W杯決勝トーナメント進出に失敗した理由につながっている。
また、ACミランにおけるバレージの人並みはずれた危機察知能力を指摘しつつ、「いったんサッキ流を飲み込んだ後は、サッキがバレージに頼る事になった」と言い切り、組織の破綻を防げるのは人だと結論付けている。これは、日本のベルギー戦での、電波言うところの「フラット3の崩壊」を思い起こさせる文章になっている。
また一方で、おじさんがサッカーをやる場合、運動量と体のぶつかり合いになるプレススタイルや、守備ばかりになるカウンターよりも、ポジション間を広くしたポゼッションサッカーをやる方が、楽しいし負けた理由も分かりやすいと述べていて、これも一昨日の私の高校サッカーについてのコラムやジーコサッカーに対する重大な示唆を感じさせる内容であったりする。
つまり、この本は、題名が「サッカーがウマくなる!かもしれない本」として、サッカー技術のミクロな事象にスポットを当てながら、そこに秘められた普遍的な真実を見通していると言う恐るべき本でなのである。
これからサッカーを自分で楽しむ人には手軽な教本として、サッカーを見すぎた人には深読みの題材として(笑)、かめばかむほど味が出る本だと言える。

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